原子力資料情報室 | ||
高野 聡 さん | ||
40万円 |
*経済だけでなく環境・社会・文化面における将来世代への影響を 考慮した政策立案を規定する法律。英国のウェールズなど、約20 カ国で施行され、注目されている。
2022年10月23日寿都フィールドワーク
203 年5 月1 日に、核ごみ基本方針改定に合わせて町民の会と共同で オンライン記者会見を行った
2022年5月の助成申込書から
2020年から寿都町と神恵内村で核廃棄物処分場選定に関する文献調査が進行している。特に寿都町では応募の是非を問う住民投票が拒否され、NUMOが行う「対話の場」を通じた住民への懐柔策に反発する住民も多い。しかし反対派住民の意見や苦悩が一般社会のみならず、脱原発団体にもあまり共有されていない現状がある。それに対し、本研究は寿都町住民に対するデプスインタビューを実施し、住民の主張やNUMOへの不信の理由を明らかにする。それによりNUMOが主導する対話の場が不公正で非民主的であり、行政の無責任さを露呈している事実を検証する。また反対派住民とともに問題の改善を考え、NUMOに対抗する住民主導の公論形成と地域運動に役立つ知識の創造も目指す。
一方、北海道内には幌延町など核廃棄物管理政策をめぐる長い歴史があるので、寿都町のみならず、道内の地域活動家に対するインタビューも合わせて実施する。行政に対する北海道内の積年の不満や認識構造を明らかにし、それを幅広い脱原発団体と共有することで、核廃棄物反対の運動ネットワークの強化を行う。これらの研究の成果は、私が委員を務める経済産業省の放射性廃棄物ワーキンググループの会合や私が所属する原子力資料情報室の政府交渉でも生かすことが期待できる。その意味で現実の解決や変革を目指すために、研究と実践の相互反映を行うアクションリサーチに近い手法を、本研究では採用する。
中間報告より
2020年11月から北海道の寿都町で始まった核のごみの処分場選定のための文献調査において、核ごみ受け入れ反対の住民運動に対するアクション・リサーチを行っています。アクション・リサーチとは、目標とする社会の実現に向けた変化を促すために、現場の活動に積極的に介入するような研究手法です。寿都町長が核ごみ応募の意思を表明した後すぐに結成された住民組織である「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」(以下、町民の会)とともに、研究をすすめています。町民の会が問題を解決する上で必要な知識の創造や戦略の発展を研究目的としています。
10月と11月に寿都を訪れ、町民の会のメンバーにインタビューを行いました。そこで感じたことは2つあります。
1つ目は、自然豊かで、独自の歴史や文化を持つ地域社会に、非民主的なかたちで核のごみ処分場が作られることへの怒りと、それを作らせないことで将来世代への責任を果たそうという強い倫理観です。2つ目は町長によるワンマンな町政を放置してきた反省から、持続可能で魅力ある寿都町を自分たちの手で作り上げなければならないという自治精神の芽生えでした。
特に町民の会が注目しているのは、将来世代の観点も取り入れて政策形成を行う未来世代法*です。文献調査の賛成派も巻き込みながら、愛郷心と将来世代の観点から町づくりについて議論を重ねることで、地域の分断を乗り越え、核のごみ受け入れを拒否するような地域世論を形成する住民運動を実践しようとしています。それに寄与できるような研究をこれから行いたいと思っています。
2023年8月の完了報告より
私の研究は、北海道寿都町で進行している高レベル核廃棄物の最終処分のための文献調査を扱いました。2020年8月に寿都町の片岡町長が突然文献調査への応募の意思表明を行って以降、人口2800人弱の小さなコミュニティは、賛否を巡り分断されました。それに伴い設置された対話の場では、不公正な運営により分断が助長されました。そのような困難な状況の中で、文献調査反対の組織である「子どもたちに核のゴミのない寿都を!町民の会」(以下、町民の会)が現在も地道に活動を続けています。
この研究では、アクションリサーチを通して、町民の会のエンパワーメント、具体的には政府の意思決定に対する対応能力の向上と町民の会を支援する核ごみ反対運動のネットワーク強化を目指しました。アクションリサーチとは、望ましい社会の実現を目指して研究者と研究対象者が共に参加する社会実践で、研究者は現場の活動に介入していきます。
アクションリサーチの成果は、以下の通りです。まず私が委員として参加する経済産業省の審議会「放射性廃棄物ワーキンググループ」の議論の内容を町民の会と共有し、共同対応を実現しました。高レベル核廃棄物政策の基本方針改定の際には、私と町民の会がオンライン記者会見を開き、その内容に抗議をしました。町民の会は経産省に対し、地域分断に対する政府の責任を問い、対話の場の総括への意見聴取を求める公開質問状も提出しました。5月末には原子力資料情報室らが主催で「どうする?原発のごみ全国交流集会」を開催し、寿都の現状を共有し、町民の会を支援するネットワークの強化を行いました。今後は寿都内での地域分断の修復に貢献できるようなアクションリサーチを目指したいと思っています。