いわき放射能市民測定室たらちね | ||
鈴木 薫 さん | ||
50万円 |
LSC-LB8 を操作している様子
全国の海水・陸水のトリチウム測定結果(Bq/リットル)
福島第一原発沖1.5km の表層の海水採取の様子(2023年8 月)
2022年5月の助成申込書から
2021年4月13日、政府は関係閣僚等会議において、東京電力福島第一原発で発生し、ALPS等によって処理した上でタンクに貯蔵されている汚染水の海洋放出を、2023年の春を目処に実施することを決定した。これを受けて東京電力は、海洋放出に向けた準備を着々と進め、2022年4月には、原子力規制委員会の認可も、県や地元自治体の了解も得ないまま、放出へ海底トンネル出口の整備工事に着手した。東京電力は地元漁業者と「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束しているが、市民や漁業者が反対の声を挙げているにもかかわらず、既成事実を積み上げて、海洋放出を強行してくる見込みだ。
海洋放出を問題視・不安視する市民は多いが、東電の多核種除去装置(ALPS)などでまったく除去ができないトリチウムを測定できる市民測定室は、たらちねを除いて国内には存在しない。仮に予定通り海洋放出が開始されてしまった場合、放出前のバックグラウンドを測定できる期間は、残り1年ほどとなる。国や東電の計画通り進んでしまえば、その後の測定は、海洋放出中の経過観察のためとなり、最終的な結果を知ることができるのは、すべての放出が済んだ40年以上後のことになる。
以上を踏まえ、たらちねでは、海洋放出を推進・容認する東京電力・政府・県などから独立した測定機関として、定点で海水の自由水型トリチウムのバックグラウンド調査を行っている。電解濃縮法による前処理を実施したことで、陸水、雨水、水蒸気、および川内原発・高浜原発近くの海水などからは、トリチウムを検出することができた。一方で、2021年度は、福島の海で、春夏秋冬4回の沖合調査、春秋2回の沿岸調査を実施したが、採取したすべての海水が検出限界(0.14〜0.17Bq/L)を下回るという貴重な結果が得られた。
海洋放出前の定点におけるバックグラウンドの値が、こうしたレベルであることを確定するため、今年度も同様の調査を実施する。
■ 年に4回、用船をして、第一原発沖1.5kmの定点において、表層および低層(バンドーン式採水器による)の採水を行い、電解濃縮の上で、液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。
■ 沖合調査に準じて、年2回、福島県沿岸の漁港および沿岸の、少なくとも南北各4定点、計8定点で採水を行い、電解濃縮の上で、液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。
こうしたデータは、たらちねのホームページなどで随時報告していくとともに、いわき市や福島県漁連などにも情報提供をしていく。
2023年1月には、「日立アロカメディカル 低バックグランド液体シンチレーションシステム LSC-LB8」を導入しました。従来のたらちねの液体シンチレーションカウンターは、ストロンチウム90の測定とトリチウムの測定との兼用のため、20ml容器に試料を充填して測定していました。「LSC-LB8」は100ml容器を使用することができるため、 トリチウムの検出下限値を大幅に引き下げることができる見込みです。
この数年のたらちねの測定では、陸水や降雨、水蒸気などの多くからはトリチウムを検出しました。しかし、海水からは、トリチウムを多く排出する国内の加圧水型原子炉(川内原発・高浜原発)近くの海水を除き、検出限界(0.1〜0.2Bq/L程度)を下回ってます。「LSC-LB8」の導入により、福島沖・沿岸のトリチウムの値を具体的に確定していくことができる見込みです。
また、組織自由水型・有機結合型トリチウムは、電解濃縮が困難である一方、検出限界を下げたいと考えていたため、前処理のみを実施して、測定は「LSC-LB8」の導入後の予定としてきましたが、これらも順次測定を開始していく予定です。
中間報告より
2023年1月13日、政府は関係閣僚等会議において、東京電力福島第一原発で発生し、ALPS等によって処理した上でタンクに貯蔵されている汚染水の海洋放出の開始を、「今年春から夏ごろを見込む」と発表しました。従来は「春ごろ」とされていましたが、東京電力が工事をしている、放出に使う海底トンネルの完成時期を考慮したものと思われます。
一方で、同日、東京電力の小早川智明社長は「地元の理解がしっかり進んでいる状況にはないと思う」と述べました。理解が進んでいないことを認識していながら、地元漁業者との「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を守らずに、既成事実を積み上げて、海洋放出を強行してくるのではないかと思われます。
たらちねでは、仮に予定通り海洋放出が開始されてしまった場合を見据えて、以下の内容で、放出前のバックグラウンドの測定を実施してきました。
■年に4回、用船をして、第一原発沖1.5kmの定点において、表層および低層(バンドーン式採水器による)の採水を行い、電解濃縮の上で、液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。
■上記の沖合調査に準じて、年2回、福島県沿岸の漁港および沿岸の、少なくとも南北各4定点、計8定点で採水を行い、電解濃縮の上で、液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。
2022年度の沖合調査は、2022年5月・8月・11月に実施し、次回は2023年3月に実施する予定です。沿岸調査もそれに準じて、春と秋の2度実施しました。
2023年8月の完了報告より
東京電力は、東京電力福島第一原発で発生し、ALPS等によって処理した上でタンクに貯蔵されている汚染水の海洋放出を、2023年8月24日より開始しました。処理・希釈をしたとはいえ、放出するとされる水には多くの核種が含まれていますが、とりわけトリチウムはまったく除去することはせず、ただ希釈して放出するだけです。
たらちねでは、海洋放出が開始されてしまった場合を見据えて、以下の内容で、放出前のバックグラウンドの測定を実施してきました。
■年に4回、地元漁業関係者の協力の下、漁船をチャーターして、第一原発沖1.5kmの定点において、表層および低層(バンドーン式採水器による)の採水を行い、電解濃縮の上で液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。同時に魚も釣りにより採取する。
■沖合調査に準じて年2回、福島県沿岸の漁港および沿岸の少なくとも南北各4定点、計8定点で採水を行い、電解濃縮の上で液体シンチレーションカウンターによる自由水トリチウムの測定を行う。
沖合での海洋調査は、2022年は2月・5月・8月・11月に実施。2023年は2月の調査は荒天やトラブルにより実施できず、5月・8月に実施。沿岸の採水調査は、春・秋それぞれ予定通りに実施しています。
また、宮城県のサーファー・アウトドアのグループからの依頼により、2023年4月に仙台湾での沖合調査、8月に沿岸での採水調査を実施しました。
2023年1月に導入した、「日立アロカメディカル 低バックグランド液体シンチレーションシステム LSC-LB8」により、海水などの自由水型トリチウムの測定下限値を大幅に下げることができるようになりました。
従来使用していた電解濃縮装置「トリピュア」で、一時、トラブルが多発し、電解濃縮法による測定ができない状況にありましたが、全体を交換し、現在は順調に稼働しています。
「LSC-LB8」と「トリピュア」の組み合わせで、2022年5月10日に採取した海水の自由水型トリチウムの測定を実施しました。結果、すべての検体において、検出下限値0.11〜0.12Bq/Lで検出限界値以下となりました。
魚類の組織自由水型トリチウムについても順次測定値を出すことができています。魚類の有機結合型トリチウムは、昨年導入した「石英管燃焼装置」を使い、試料水を回収するところまでは技術が進みましたが、その後の工程で試行錯誤中です。
海洋放出が強行されてしまいましたが、海の変化を捉えるため、たらちねとしては、従来通りの沖合・沿岸調査、および測定と測定技術のさらなる向上を図っていきます。