R.I.La | ||
尾崎 美佐子 さん | ||
40万円 |
丹波川本流、羽根戸トンネル付近
左ヤマメ、右イワナ 丹波本流羽根戸トンネル付近、捕獲者中村綱秀
2022年5月の助成申込書から
多摩川の源流部である丹波山水系の源流部定点観測地点と源流部支流最上部において、渓流魚をマーカーとして河川のマイクロプラスチック汚染の状況を調査する。現在までの調査では、多摩川中流域、多摩川上流域、多摩川源流域と調査を実施してきたが、いずれも検体として採取した魚類からマイクロプラスチックの検出か見られた。調査前の情報では、河川のマイクロプラスチック汚染は、その原因が中流域に致するまず再処理センターからの排水に含有する家庭の洗濯排水内の化繊(プラスチック繊維)の剥がれによる繊維状のプラスチックであるとされていた。中流部の水再処理センター排水口下流域の調査では、学説通り検体として捕獲したオイカワ50匹中49匹からマイクロプラスチックの検出を見た。その結果を受けて翌年から水再処理センターよりも上流域並びに、魚の上下動が不可能な魚止めとしての小河内ダムの上流域において中流域と同様に魚類をマーカーとして調査をした結果、小河内ダムよりも上流に位置する丹波山水系においても、捕獲した全てのマーカーからマイクロプラスチックを検出する、という結果を得た。これは多摩川の源流部を含むすべての流域に水再処理センターの排水以外の汚染源を存在することを示唆している。また、検出されたマイクロプラスチックの形状、色、大きさなどから、当該汚染源が繊維状のプラスチックであり、上流に行く程汚染が強くなることなどから、山間部の道路工事や河川工事などで多く使用する土留めネットや土嚢などのプラスチック製品が汚染源として疑われる結果となった。そこで2022年度からは、丹波山水系の代表的地点を定点観測地点としての調査をすると共に、丹波山水系の支流の更に源流部の人工物の無いに立ち入り、調査を実施することで、2021年までに得られた推測を実証するための調査を実施するものとした。
中間報告より
この調査では、多摩川の源流である丹沢水系の上流部において、渓流魚をマーカーとして、河川のマイクロプラスチック汚染の状況を調査するものです。2022年9月までに予定していた調査は予定通り全て完了しました。新たな調査域として、小室谷最源流の大黒茂谷、並びに一之瀬川支流の竜喰谷最上流部の調査も完了しました。
さらに、定点観測地点である丹波川本流、一之瀬川本流、柳沢川、高橋川、小室川、泉水谷、一之瀬中川、一之瀬日進川、後山川の各地点での調査も完了し、2022年度漁期での予定していた調査は全て完了しました。右記に調査結果の速報値をまとめました。
これらの調査結果の考察については、ステークホルダーであり調査協力団体でもある丹波川漁協への報告がまだであり、非常に神経質にならざるを得ない結果も含まれていますので、中間報告では控えますが、今期の新規調査地点である丹波山水系の最上流部となる小室川源流部大黒茂谷、一之瀬川支流竜喰谷源流部では、捕獲した検体全てからマイクロプラスチックが検出されており、今季調査前の我々の想定とは異なる結果でした。これは、丹波山水系の最上流部において、新たなるマイクロプラスチックの汚染源が存在することを示唆していると考えます。
2023年8月の完了報告より
2020年度より開始した多摩川源流域に生息する渓流魚のマイクロプラスチック汚染の調査では、初年度の2020年度は4月から9月の6か月の間、丹波川流域を中心として調査流域で誕生、成長したものと推測されるイワナ、ヤマメ、アマゴ、ウグイなどの渓流魚50匹以上を捕獲し検出検査を実施しました。結果として、検体すべてからマイクロプラスチックが検出されました。
検出されたマイクロプラスチックは、中流域のオイカワと比較すると、繊維であることは同様でしたが、繊維自体が少し太いものが多く、緑青色のついた繊維も多く確認されました。丹波川流域には水再処理センターの排水の影響は受けようがなく、原因として想定される河川に流入するプラスチック自体が、中流域以降とは全く別のものであると想定されました。そこで現地調査並びに現地関係者からの聞き取り調査を実施し、土木工事に使用される土留めネットが破損し、降雨による出水で流出したもの(緑青の繊維)と、やはり土砂崩れなどの予防として設置された土嚢が、その後放置されて破損し流入した可能性が大きいと考えました。
2021年度は、2020年度に調査したエリアの定点観測と共に、さらに上流の魚類も調査し、沢の近くに林道がなく、沢自体にも堰堤などの人工物が少ない谷の汚染状況の確認を試みました。人工物の無い沢として選んだ一之瀬川支流の竜喰谷では、下駄小屋ノ滝下流域において、丹波山水系で初めてマイクロプラスチックに汚染されていない渓流魚が確認されました。この確認によって、我々の仮説である「河川源流域でのマイクロプラスチック汚染の原因は、土木工事で使用されるプラスチック製品の劣化による河川への流入」がより現実味を帯びてきました。
2022年8月より2023年7月の高木基金の助成による調査では、これら人工物の設置がない沢への調査をより深耕するとともに、2020年より継続して実施している定点観測地点での調査を引き続き実施しました。具体的には新たな調査地点として多摩川水系の日原川流域(上流は小川谷合流点付近、集落付近、多摩川合流点、支流は川苔谷、小川谷、倉沢谷)、多摩川本流の鳩ノ巣付近、川井堰堤付近、小河内ダム下を加え、定点観測地点として、丹波川本流の後山川出会いから一之瀬川、柳沢川の合流点まで、一之瀬川本流、一之瀬中川、後山川第一堰堤、一之瀬川支流の竜喰谷の上流部を調査しました。
今期の新規調査地点である丹波山水系の最上流部となる小室川源流部大黒茂谷、一之瀬川支流竜喰谷源流部では、捕獲した検体全てからマイクロプラスチックが検出されており、丹波山水系の最上流部において、新たなマイクロプラスチックの汚染源が存在することを示唆しています。
今後の課題として、全国各地で活動している環境団体への河川でのマイクロプラスチック汚染調査の技術移転にも取り組んでいきたいと考えています。