山室 真澄 さん | ||
80万円 |
ネオニコチノイド濃度が相対的に高い水道水原水の河川。 自然豊かな農村部の方が市街地よりもネオニコチノイドの 混入が高い例が見受けられた。
図1 左:堤防の大潟村側で湧出している八郎湖水。大潟村では堤防 沿い約1 km 長で堤防からの湧水を集め、ポンプを使って、地下に埋 設した水管を通じ浄水場まで送水している。右:八郎湖と大潟村。八 郎湖の水面は大潟村の標高よりも高い。
図2 秋田県大潟村・秋田市水道水中の 2022 年5 月? 2023 年4 月のジノテフラン濃度
2022年5月の助成申込書から
欧米では人の脳への影響などから使用が禁止・制限されているネオニコチノイド系殺虫剤(以下、ネオニコ)は、日本では逆に規制が緩和されている。
日本はかつて人口あたり胆嚢癌発生率が世界一高く、その原因が塩素処理で分解しない水田用除草剤CNPが水道水に混入した為であることが指摘されて失効するまで、30年以上も使用されてきた。ネオニコもCNP同様、浄水場での塩素消毒では分解しない。相模川を水源とする水道水のネオニコを分析した報告によると、田植え後に降雨があった日の濃度が高くなっていた。申請者が霞ヶ浦のネオニコ濃度を分析した結果でも、田植え直後の時期に高濃度だった。流域に水田が多い地帯やネオニコ耐性をつけた害虫が飛来する西日本では、相模川や霞ヶ浦より高濃度の可能性がある。
そこでネオニコの高濃度の混入が推定される12箇所の平野下流部水道水について5〜8月の4ヶ月間、毎月の採水を行い分析する。高木基金に採択された場合、上記12箇所のうち高濃度だった箇所での継続調査に加え、ネオニコ混入が疑われる地下水を水源にしている地域の水道水も分析する。
尿からネオニコが検出される子供の脳はネオニコに汚染されていて、検出されるネオニコの種類と濃度の増加に応じて子供に起こる異変も増加する。かなり高濃度のネオニコが検出された場合は次年度以降、尿中ネオニコの濃度を分析し、尿中ネオニコ濃度と人健康被害との関係を論じた既報と比較する。
中間報告より
日本は米を主食としているため、農地に占める水田の割合が多く、水田に散布された農薬が河川や湖沼などの水道水源に混入し、水道水中の農薬濃度がEUの飲用水中農薬類の一律規制濃度である0.1μg/Lを超える場合があると報告されています(Kamata et al. 2020)。
ネオニコチノイド(以下「ネオニコ」)は昆虫以外の動物への影響が少ないとして販売され、世界で最も多く使用されている殺虫剤です。神経系をターゲットにしていて、近年はヒトの神経系にも影響する可能性が指摘されています。本研究では水稲栽培が盛んな平野部を対象に、本州、九州の12カ所の水道水のネオニコ7種を、2022年5月から2023年4月まで毎月分析することとしました。
ネオニコは、浄水場で活性炭処理を行うと除去できるとされています。本研究では2地点の水道水が活性炭処理されていました。このうち1地点はこれまでのところネオニコはほとんど検出されていません。しかしもう1カ所では複数のネオニコが常に検出されました。活性炭を適宜交換していないことで再溶出していると考えられます。活性炭処理を行っていない農村地域の水道水のうち2地点では、ネオニコ濃度が常に低い状態でした。
これらネオニコ濃度が低かった3地点以外の5月から11月までの結果では、田植え期の5月ではなく8月に高い濃度が検出されました。カメムシなどに対してこの時期に防除を行う為と考えられます。最も高い地点では、1種類のネオニコだけでもEUの一律規制濃度の8倍を超えていました。
2023年8月の完了報告より
ネオニコチノイド(以下、「ネオニコ」)は世界でもっとも広く使われている殺虫剤で、ニコチンに似た成分で標的害虫の神経伝達を阻害します。全国12 箇所の水道水から検出された農薬濃度をまとめた先行研究は、ネオニコの1種のジノテフランがEU の規制値を超えていたと報告しています。しかしこの研究からは、どのような地域や時期にジノテフランが高濃度に混入するかを読み解くことができません。本研究では農地に占める水田率、原水の種類、浄水処理方法の3点を念頭に、全国12箇所の水道水を抽出し、毎月1回採水してネオニコ濃度を分析しました。全ての水道水からネオニコの1種であるジノテフランが常に検出されました。水田率が高い秋田県の大潟村と秋田市の水道水で同じ月に検出されたネオニコ濃度を比較すると、秋田市の濃度が全て大潟村よりも高い値でした。特にジノテフランは、大潟村より常に10倍以上でした。大潟村では八郎湖水が堤防を浸透した水を、秋田市は雄物川河川水を原水にしています。八郎湖水のネオニコ濃度は雄物川よりも高かったものの、堤防浸透水は水道水と同程度に低濃度でした。堤防浸透は様々な有機物や無機物が効果的に除去されるとして世界的に普及している浄水法ですが、日本では堤防を治水としてのみ利用しており、破堤の懸念などから堤防浸透を広めるのは難しいと考えられます。水田にまかれる農薬により飲用水が高濃度に汚染される危険性が高いのは、平野部の農村です。そういった自治体の浄水場の多くが、経費がかさむ活性炭処理をしていません。水道水にはネオニコだけでなく水田にまかれる様々な農薬が混入していることや、水田にまかれた農薬による健康被害が起こっている実態を周知することで、堤防浸透以外(たとえば減農薬や地下水利用など)の選択肢への関心が高まると考えられます。