モザンビーク開発を考える市民グループ |
研究成果発表会配布資料[pdf] |
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大林 稔 さん | ||
http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/ | ||
65万円 |
モザンビーク・ナンプーラ州モナポ郡 女性農民グループへのインタビュー 2016年9月撮影 渡辺直子
新しい鉄道が3m程深く掘られて敷設されたが、前後数キロにわたり歩道橋もなく、人びとは無理やり渡ることを強いられている。妊婦や小さい子どもも渡らねばならず、事故で亡くなった人も複数出ている
ナカラ鉄道整備事業により、住民(小農)の強制移転が生じている。これにより、住民は家屋、農地いずれか、あるいは両方を失っている
高木基金「市民科学 研究成果発表会 2017」での発表の様子(渡辺直子さん)
2015年12月の助成申込書から
本研究は、2015年度の研究調査活動「アグリビジネスによる土地収奪に関するアフリカ小農主体の国際共同調査研究―モザンビーク北部を中心事例として」を発展させる形で実施するものである。これまでの調査研究・政策提言活動により、アグリビジネスによる土地収奪(ランドグラブ)について、多くのことが明らかになり、成果を発信してきた。また、モザンビークの研究者と当事者である農民運動や市民社会、国際的な研究者・NGO・国際機関との協働も深化しつつある。
貴基金に助成頂いた本年度の現地並びに文献調査、そして現地の農民組織とのやり取りの結果、次の点が明らかになった。(1)土地収奪の加速化には、アグリビジネスだけでなく、植林、鉱物資源開発、インフラ事業が深く関わっており、その背景に「経済回廊開発」というコンセプトがあること。(2)近年、日本政府・JICA(国際協力機構)がアフリカでこの「回廊開発」の推進に積極的に関わっており、日本企業の投資・進出が相次いでいることである。
これらの点については、日本だけでなく、世界的に研究蓄積が不足しており、むしろこれを推進する側の調査研究が国際機関・政府(日本政府を含む)・援助機関(JICAを含む)・企業主導でなされている実態がある。
しかし、「経済回廊開発」の推進によって、モザンビーク北部のナカラ回廊沿い地域では、膨大な数の小規模農民が土地を奪われた、あるいは奪われる危機に直面している。そのため、現地農民組織・市民社会組織と国際共同調査を実施し、当事者である地域の小農の調査提言能力の向上を通じた政策転換を促していくことが不可欠となっている。そこで、本研究では、本年度の成果と実践を踏まえ、現地調査による実態把握を行い、その成果を現地・日本・世界に向けて広く社会に還元し、政策への反映を試みる。
2016年10月の中間報告から
本研究は、2015年度の研究調査を発展させる形で実施してきました。2015年度の調査結果により、(1)モザンビークにおける土地収奪の加速化には、アグリビジネスだけでなく、植林、鉱物資源開発、インフラ事業が深く関わっており、背景に「経済回廊開発」というコンセプトがあること。(2)日本政府・JICA(国際協力機構)がアフリカで「回廊開発」の推進に積極的に関わっており、日本企業の投資・進出が相次いでいることが明らかとなりました。
「回廊開発」は、鉄道や道路網の整備によって、内陸部の資源・農産品を港に運び、世界市場に安定供給することを狙うものですが、モザンビーク北部のナカラ回廊沿い地域では小規模農民が土地を奪われるケースが発生しています。
これを受けて、本研究は、日本・モザンビークの研究者と小農が協働して、(1)現地調査・文献調査により、ナカラ回廊開発の実態、および現地小農の暮らしへの影響を明らかにし、(2)その成果を現地・日本・世界に発信・還元し、(3)政策・投資アプローチの転換を目指してきました。
上半期は、伊勢志摩G7サミットに向けた声明を作成したほか、一次・二次資料の収集を行い、8月下旬までに得られた資料の分析を進め、これを英語・ポルトガル語で発表しました。この分析を踏まえ、3ヶ国(モザンビーク・ブラジル・日本) で声明を作成し、日本政府に提出したほか、世界に向けて3言語で発信しました。8月27日には、日本政府・アフリカ連合・国連等によってケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)の市民社会サイドイベントに、現地調査パートナー(モザンビーク小農組織と市民社会組織の代表)と共に参加し、本研究調査の成果を発表しました。その他、現地農民、市民社会組織との共同調査を9月に実施する予定です。
完了報告・研究成果発表会資料より
2015年度の調査結果により、 モザンビークにおける土地収奪の加速化には、アグリビジネスだけでなく、植林、鉱物資源開発、インフラ事業が深く関わっており、背景に「経済回廊開発」というコンセプトがあることが明らかとなりました。
近年、この「回廊開発」のアフリカでの推進に、日本政府・JICA・日本企業が積極的に関わっています。なかでもモザンビーク北部(ナカラ回廊)に対しては、最大規模の注目と資金投下がなされてきました。
これを受けて、2016年度の本研究は、ナカラ回廊地域を対象として、日本・モザンビークの市民・研究者と小農が協働し、現地調査を通じて、(a)ナカラ回廊開発の実態、(b)現地小農の暮らしへの影響、を明らかにしようと試みました。
その結果、(ア)住民(小農)強制移転、交通手段やマーケットの喪失、生活・健康上の被害・人権侵害が生じていること、(イ)大規模なアグリビジネスによる新たな土地収奪が減少する一方で、「契約栽培」などを使った目立たない形での土地収奪が継続していること、が明らかとなりました。また、現地調査と並行して、一次・二次資料の収集・分析を進め、英語・ポルトガル語・日本語での報告書・声明・記事などの形で日本・現地社会と世界に広く共有しました。
調査研究から得られた成果は、日本政府やJICAへの直接的な政策提言(声明・意見交換会を含む)に役立てられた他、国内での報告会(院内集会、報告会)、あるいはG7市民の伊勢志摩サミットや8月にケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)サイドイベントでの発表、国内外での学会発表(広島大学、北京農業大学、ヴィトリア(スペイン))などを通して、国際社会や学術・実務界にも還元しま
した。
さらに、本研究では、「次」を見据え、モザンビークでの共同調査では「農民から農民への能力強化研修」の事例を調べるとともに、日本でも「農民交流」を行い、様々な示唆を得ました。
しかし、JICAの資金を使っての現地小農・市民社会組織の「分断」状況は改善するどころか悪化しています。調査および文献調査により得た事実に基づき、引き続き、政策改善を求めて、外務省・JICAとの意見交換を継続していきます。