六ヶ所再処理工場放出放射能測定プロジェクト |
研究成果発表会配布資料[pdf] 研究成果発表会配布資料[pdf] |
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古川 路明 さん | ||
http://www.cnic.jp/ | ||
80万円 |
松葉中に取り込まれたCs134、Cs137、K40の挙動[2011年1年芽濃度と2012年2年芽濃度の対比。2011年1年芽濃度を1とする]
2011年12月の助成申込書から
本調査研究は、六ヶ所再処理工場の周辺の環境試料の放射能測定と評価を行います。調査・測定は2005年以来継続し、松葉、米、海砂、海水等のガンマ線、炭素14等について測定データを蓄積してきました。また米、松葉については、対照資料として、千葉(三里塚)、新潟(刈羽村)等の試料も測定します。
六ヶ所再処理工場のめぐる状況は、2010年9月に「本格稼働予定を2012年10月へ延期」と公表して以来、ガラス固化体製造試験を中断したままです。2011年3月11日M9.0の東北地方太平洋沖地震による東北電力の電力不足のため、大量の電力を使用するガラス固化試験が実施できない状況が続いています。また福島第一原発苛酷事故を契機とする原子力安全への国民的不信を受けて、原子力政策大綱改訂作業等エネルギー政策をめぐる議論の中で、核燃料サイクルの必要性を抜本的に見直す機運が高まっています。
本調査は、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験前、さらに本格稼働前の基礎的測定データ蓄積を目的としてきました。しかしながら3月11日の福島第一原発事故による大量の放射能放出は東日本全体を覆いました。2010年度の環境試料の測定を実施中ですが、共同研究者による六ヶ所村周辺での松葉のガンマ線測定において、セシウム137の沈着によると推定できる測定値が確認されています。いままでの測定データ等と比較検討し、福島第一原発による放射能拡散の実態を明らかにする作業にも取り組む予定です。
昨年度の測定作業の一環として、福島県内の警戒区域(大熊町)での空間線量測定・試料採取(土:測定中)を行いました。
2012年10月の中間報告から
六ヶ所再処理工場のアクティブ試験は、中断したまま稼働予定の延期が続いています。しかし政府は、「革新的エネルギー・環境戦略」において原発を2030年代にゼロとする目標を掲げる一方で、核燃料サイクルの継続を決定しました。日本原燃も試験再開をめざしており、今後も六ヶ所再処理工場周辺の環境試料の測定と基礎データの収集・整理は継続する必要性があります。
2011年度の環境試料測定(松葉)で、福島第一原発から放出された放射能の影響が六ヶ所村にまで及んでいることが明らかになりました。皮肉にも大事故によって日本各地が汚染される中で、3・11以前と以後のデータを比較検討する結果になりました。これは今日までの基礎データの蓄積と測定結果の分析・評価によって可能となったもので、調査継続の重要性を痛感しました。
六ヶ所再処理工場の放出放射能測定という本来の目的から副次的に得られた成果ですが、原子力施設からの放出放射能を住民が自ら測定し、環境汚染の実態を把握し、広く社会的に公にするという私たちの調査活動の持つ意味が明らかになったと考えています。今後も政府や事業者の安全規制、放出放射能の測定体制、広報体制等への監視的役割をも担うものとして、測定活動を継続しており、六ヶ所村、その他の地域での試料採取等を実施中です。
完了報告・研究成果発表会資料より
六ヶ所再処理工場アクティブ試験開始前(放射能放出前)の2004年から再処理工場と東通原発周辺での環境汚染調査を開始し、これらの調査結果を順次公表しています。2010年までは、再処理工場は正式稼働に至っていないので再処理工場由来の汚染は、空気中のトリチウムなどごく一部しか検出されませんでした。
2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故から大量の放射性物質が放出されたため、2011年秋に六ヶ所や東通周辺で採取された松葉からは従来検出してきた濃度をはるかに超えた汚染が検出されました。セシウム(Cs)134は放射化生成物で大気圏内核実験では生成されませんでしたし、チェルノブイリ事故で放出されたものも、その半減期が2年であるため、すでに減衰して検出できなくなっていました。それでも、2011年の松葉からはCs134が明瞭に検出され、Cs137との濃度比が約8 割でした。いうまでもなく福島第一原子力発電所由来です。これらCs134、Cs137は、2012年度に採取されたいずれの松葉試料からも引き続き検出され、Cs137濃度は事故以前に比べれば依然として高い値となっています。し
かし、2011年に比べれば大きく減っています。
松葉中に存在しているセシウムの挙動についての研究も行っています。例えば、2011年に1年芽であった松葉は2012年には2年芽の松葉として採取され、定量されます。それらを比較すれば、一度松葉中に取り込まれたセシウムの挙動についての情報が得られます。そうして比較したデータを図に示します。カリウム(K)40は、六ヶ所周辺、東通周辺で採取されたどの松葉においても2011年の1年芽試料に比べ、1年後の2012年に2年芽試料となった試料で減少していました。アルカリ金属に属する元素であるK40 は、一度松葉の構成要素となりますが、時間の経過に伴って抜け出していくのだと思われます。同じアルカリ金属に属するセシウムも多くの地点では、カリウムと同様に、減少しています。この比較は、松葉に取り込まれた核種を比較しているので、今後、環境からの吸収率、排出率、さらに放射能の減衰等について詳細に検討することによって、セシウムの挙動をさらに解明できるものと思われます。