モペッ・サンクチュアリ・ネットワーク |
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畠山 敏 さん | ||
40万円 |
河川環境調査の様子
オホーツク・紋別ESDセミナー「海と大地の声を聞く」。2012年2月18日。
公害防止協定の締結記者会見。2012年3月9日。
北海道の紋別市内を流れるモベツ川の支流、豊丘川の水源域に北海道庁が許可した管理型産業廃棄物最終処分場の建設が進められている。
この計画をめぐっては、周辺住民や、モベツ川に遡上してくるサケの保全や資源管理権を求めてきたアイヌ民族漁師らの反対の声を無視して手続きが進められてきた。
ところが、建設が始まってから地域住民らが豊丘川の調査を行ったところ、サケの遡上と産卵が確認され、専門家の見解では、野生サケである可能性が高まっている。
このことが科学的な事実として立証されるならば、内水面におけるサケ資源の保護を定めている水産資源保護法や北海道内水面漁業調整規則によってサケの捕獲が禁止されていることに鑑みて、サケの生息や産卵に影響を及ぼすことが必至と推定される産業廃棄物処分場を上流地域に立地する計画については、厳しく制限がなされるべきである。
ところが、許可を与えた北海道庁も、また、廃棄物処理法に基づいて事業者が行った設置許可申請に係る生活環境影響調査を審査した道廃棄物処理施設専門委員会も、この水域におけるサケの生息及び産卵調査はいっさい実施しておらず、その検討すらも行わずに事業が進められている。
そこで、まずは豊丘川をはじめ、モベツ川水系におけるサケの遡上及び産卵に関する科学的な調査を市民の手で行い、野性サケの存在とその保護の重要性を訴えていきたい。
2011年10月の中間報告書から
北海道の紋別市内を流れるモベツ川の支流、豊丘川の水源域に管理型産業廃棄物最終処分場の建設が進められている。この地区は、かつてアイヌ・コタン(集落)が形成されていたアイヌ民族にとって重要な土地であり、現在もモベツ川の河口部では、地元のアイヌ民族によってカムイチェップ・ノミ(サケを迎える儀式)が行なわれている。
当ネットワークは、紋別の自然環境の保全・活用を通して、アイヌ民族の権利回復を推進していくことを目的に結成されたが、産廃処分場の建設・操業によって地域の自然環境、とりわけアイヌ民族にとって特別な意味をもつサケの遡上する河川環境に影響が出ることを懸念している。
今回の調査は、.皀戰沈遒よび豊岡川における野生サケの遡上・産卵を立証すること、△修凌綣祖敢困鮃圓覆Δ海箸濃最兔菠場の建設・操業が河川環境に与える影響を明らかにすること、C聾欺嗣韻箚愀玄圓らの聞き取り・文献調査から当該地域の歴史的、文化的価値を明らかにすること、を目的として実施している。
すでに、現地での二回の水質調査、関係者からの聞き取りなどを実施しているが、今後、11月に河川環境調査(水質、サケの遡上・産卵状況)および聞き取り調査を実施し、年内に一定のまとめをした上で、1月ないし2月に紋別にて調査報告を含む、市民向けの集会をもつ予定。
完了報告より
当ネットワークは、紋別在住のアイヌ漁師である畠山敏氏の思いを共有したメンバーによって、地域の自然環境を保全・活用しながらアイヌ民族の権利回復をうながし、持続可能な共生社会を実現していくために結成されました。当ネットワークの結成と前後して、モベツ川支流の豊岡川水源域における産業廃棄物最終処分場の建設問題が浮上、モベツ川および豊岡川で遡上・産卵する、野生種である可能性の高いサケに与える影響が懸念されたため、河川環境調査を実施しました。
水質調査では、2011年7月、9月、11月の3回にわたって、モベツ川およびその支流である豊岡川、元丘川の計7地点で水温、透明度、電気伝導率、pH、COD、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、リン酸態リンなどを計測し、また9月には豊岡川にて底生生物調査を実施しました。この結果、産廃施設操業前の豊岡川の水質は良好であり、底生生物調査では北海道レッドデータブック掲載の希少種の存在も確認されました。一方、既存の廃棄物処分場が上流部にある元丘川や、モベツ川中流の金山開発による沈殿池からの排水が漏れ出ている地点では、河川の汚染が確認され、流域における廃棄物の存在が河川環境に悪影響を及ぼしていることが確認されました。
こうした調査活動の一方で、畠山敏氏は産廃業者の株式会社リテックを相手に公害審査会による調停を申請、当ネットワークではその活動を側面支援してきました。計6回に渡る調停審議の結果、アイヌ協会紋別支部長畠山敏氏とリテック社との間で公害防止協定が結ばれることとなりました。この調停は、畠山氏に代表される地元紋別のアイヌ民族が、モベツ川におけるサケの漁獲権を先住権として潜在的に持つことを根拠として臨んだものであり、協定の締結は地域における森林・河川の開発行為や有害物質の貯蔵などにあたって地元のアイヌ民族の合意や監視が必要であることが社会的に認知されたものとして評価できます。
今後は、産廃処分場の操業開始が想定されることから、河川環境調査を継続し、その影響を調べると共に、聞き取り・文献調査などを通じて地域のアイヌ民族の歴史・文化や環境との関わりを可視化し、アイヌ民族の権利回復の必要性が広く社会に認知されるよう発信していきます。